<8.願かけ門> | |||
いつの頃が始めなのか、岡口門をくぐるとき、門に向かって拝む人が出てきた。 岡口門には、大きな扉のついたところと両脇に小さなくぐり門があった。 そのくぐり門は、高さ約2メ―トルぐらいで大きな梁(はり)があり、板壁との間は棚のようになっていた。 ある日、正男は父に連れられて、城内にできた産業博物館を見に行った帰りのことである。 岡口門まで来ると、門のそばで石を拾い、それを門に向かって投げている人があるのに気づいた。 「父さん、あんなことしてら」 と、父に告げると 「あれ、あれな願かけしてるんや」 と、別になんでもないような顔を正男に向けた。 門に近づくと、石を投げていたのはおばあさんであった。 「どうぞ………頼みます」 そう言って足下の石を広い、それをくぐり門の梁の上にほりあげた。 石は壁板に当たり、はねかえって足下に落ちた。 おばあさんはもう一度 「どうぞ……孫……頼みます」 と、言って石をほり投げた。 今度は、石は板壁に当たり、そのまま落ちてうまく梁の上にのった。 「父さん、あれなにしてんの」 「ああ、あれか、あれ願かけてるんや」 「願かけて?」 「うん、なんか願いごとあったら、石をあの上にほりあげるんや」 「へ-ほんま」 正男は、前におばあさんからお宮やお寺で願かけすることを聞いたことがあった。 門に願かける。これは始めて聞いたことである。 「あそうか、お宮もお寺も門あるな。この門も同じか。それで岡口門でも願かけてもええんやな」 と、一人で納得した。 くぐり門を見ると、梁の上の一番大きな石は、にわとりの卵ぐらいのものがあった。あとはそれより小さい石がいっぱい上がってた。 「どうな、お前もやってみるか」 「うん、そやけど頼むもんないわ」 「なんでもええ、まあほってみな」 「うん」 正男は、足下の砂利の中から手ごろな大きさの石を拾ってほりあげた。石は高く上がりすぎ板壁にあたり、勢いよく戻ってきてもう少しで顔に当たりそうになった。 「なんにも言わんとやったらあかんのやな」 そう思った正男は、二度目は 「頼みます」 と、だけ言って、また投げた。今度は願をかけたためか、石はうまく梁の上におさまった。 うまくいったので父の顔を見た。 「うん、二回で上げたな」 と、父は満足そうな顔をして笑った。 帰り道のことである、正男は、父から岡口門を町の人から『願かけ門』と呼ばれていることを教えてもらった。 註 岡口門は、昭和35年に修復されるまで、この話に出てくるくぐり門は自由に通り抜けをすることができた。 今はくぐり門は板壁となっている。 今も南側のくぐり門であった梁の上に石がのっている。この石は、少なくとも修復のあとに載せられたものであろう。 昔、この門に願いをかけた人々があったことを知って、ほりあげられた石であろうか |