和歌山市立 広瀬小学校

広瀬の昔話

<11.狸のしくじり>
 むかし、岡口門のそばにタヌキが住んでいた。
 この外に広い城内には、森や石垣の裏を巣にして住んでいるタヌキが多かった。
 タヌキは、昼間は人間が城内に遊びに来るので、暗くなってから巣をでて、昼間、人間が置いていった弁当の食べ残しを食べるのである。
 冬はえさになるものが少なくて困るが、春になり桜が咲き出すと、人間が花見に来て大層な弁当の食べ残しがあるので、それを食べて腹いっぱいになり、昼間はうとうとと昼寝の毎日であった。
 桜も散り、人間も花見に来なくなった頃の夕方でる。
 岡口門のタヌキは、同じ年の友達の表坂に住んでいるタヌキを誘って遊ぼうと思って、自分の巣を出た。
 巣を出た岡口門のタヌキは、まだ少し明るいので、人間に見つからないように用心してできるだけ背を丸め、小さい姿勢になり鉄砲塀にそうて走り出た。
 鉄砲塀の突き当たりの石垣を登ると、石垣の上の大きな木の根元に、人間が飲む黄色の水が入ったビンが転がっていた。
 それを見つけた岡口門のタヌキは、あとで表坂のタヌキと一緒に飲んでみるつもりで、そのビンを足でけって木の根元に寄せておいた。
 表坂のタヌキの巣は、まわりに大きな木があり、住み心地がよい。それに人間が天守閣に行くために表坂を、よいしょよいしょと上っていくのが見えて退屈しない。
と、前に表坂のタヌキが言っていた。
「居るか、来たで」
と、言って巣をのぞくと、暗い巣の中で四つの目が光っていた。
「居るか、来たで」
と、またいって、巣の中に入っていった。
「う-ん」
 なんだか様子がおかしい。おじさんタヌキが居ないし、おばさんタヌキが表坂のタヌキの背中を一生懸命さすってる。
「どうしたんよ」
表坂のタヌキは答える元気もないのか、代わっておばさんタヌキが
「えらい腹いたでね-、今父さん薬の草を取りに裏坂へいってくれたんや」
「なんで腹いたや」
「それがね-、人間が飲むあの黄色の水を飲んだんやと。それからやけど、巣に戻ってくるなり巣の中で大声出すやら、天井に飛びつくやらして大騒ぎしたと思ってたら、急に静かになり今度は『腹いたい』と言いだしたんや」
「へ-え」
 表坂のタヌキは、腹いたがきついのか、体をかがめたり、のけぞったりして苦しんでいた。
おばさんタヌキは、背中をさすったりしてやっているが、表坂のタヌキの腹いたは、なかなか治まらなかった。
「おい、腹いただけか」
「ここも」
 表坂のタヌキは、自分の頭のてっぺんに手をやった。
「おばさん、頭も痛いて言うてるで、薬飲んだらなおるかい」
「父さん薬持ってきてくれたら、直ぐなおるやろ」
 おばさんタヌキは、あまり心配してない様子で、岡口門のタヌキに話した。
 しばらくすると、おじさんタヌキが薬の草を持って戻ってきた。
 おじさんタヌキは、持ってきた草を表坂のタヌキの前におき
「ほら、これ食え、ちょっと食いにくいが、これ食わんと死んでしまうぞ」
 父タヌキにこういわれた表坂のタヌキは、口に入れるたびにむせながら、目を白黒させて薬の草を食べた。
 ようやく食べ終わった表坂のタヌキの口のまわりは、草色になっていた。
「父さん、大分いたないようになってきたよ」
「そうか、あんなもん飲んだらあかんぞ。あれはな『酒』て、いうてほろよい水や。あれ飲むとタヌキはこの草で治るが、人間の子やったら頭痛た続いて、しまいにアホになるんや」
「どうや、治ってきたか」
「うん、よなった」
 そういった表坂のタヌキの尻から、プ-とオナラ出て巣の中はいっぺんに臭くなった。
「ヘ-おじさん、よう知ってるな-」
と、岡口門のタヌキが感心したように言うと、
「あんまり大きな声で言えんけど、実はな、わしも子どもの頃にあの酒でしくじったのや、誰にもいうたらあかんで」 酒を飲んだ表坂のタヌキの苦しみ方を見たり、おじさんの話を聞いた岡口門のタヌキは、表坂に来る途中にかくしてきた酒びんのところまで戻ってきた。
 びんは、月の光に照らされてきらりと光っていた。
 岡口門のタヌキは、びんを堀に捨てようと思い、後ろ足をそろえて力いっぱいけった。
 びんは、ころころと転がって、ポチャンと堀に落ちた。
 表坂のタヌキが振り向いて堀を見ると、びんはまっすぐ立ったまま浮いていた。
 びんが立ったまま浮いているのを見た岡口門のタヌキは、やっぱりほろよい水がはいっているんやな。と思った。

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