<4.ねずみ突き不動> | |||
むかし、それもうんと昔の千年前のこと。 天妃山の西にある松生院のご本尊の話。 松生院がまだ、四国の高松の八島(屋島とも書くが)にあった頃の話。 ある年の秋のこと。 今まで、ネズミが一匹もいなかった寺に、どういうわけか寺にたくさんのネズミが住むようになり、そのネズミが寺の中で騒ぎだし、ネズミのかたい歯で仏さんの道具や、障子や、食べ物を食い荒らすようになった。 お寺であるので殺生ができなく、和尚は小僧にいいつけて、ネズミの通り道の穴をつめさせたり、障子をきっちりと閉めるようにしたり、仏さんの道具を片付けさせたりしたが、少しも効果がなかった。 ネズミは、小僧たちが一生懸命に、ネズミが荒らすのを防ごうとしている姿を見ながら、それを笑うようにますます暴れまわった。 何とかしてネズミを退治しないと、和尚の言いつけに背くことになるので、ほとほと困り果ててしまった。 こうなれば、お寺のご本尊にお願いするしかないと考えた一人の小僧が 「どうぞ、ご本尊様、あの悪いネズミをお寺の外へいかして給え」 と、一心不乱にお願いした。 お願いした夜もネズミは騒いでいたが、あくる朝、いつも廊下を走っているネズミの姿が見えなかった。 夕べご本尊様にお願いしたが、もう一度お願いしようと思い本堂に向かった。 本堂の前までくると、小僧は立ち止まって、障子を開けるのを待った。この頃、本堂の障子は気をつけてあけないと、本堂で騒いでいたネズミが飛び出してきて、所構わず噛み付くのである。それで小僧たちは、用心して障子を開けるようにしていた。 小僧は、またネズミが騒いでいるだろうと思い、障子を少し開けて中の様子を見てみた。 ところが、昨日までの騒がしさがうそのように、本堂の中は静かである。そこで障子を開けて、中に入って驚いた。 なんとご本尊がお持ちになっている剣の先に、一匹のネズミが刺さっているではないか。 これを見て小僧は、夕べネズミ退治をお願いしたことを早速聞き届けていただいた。と涙を出して喜び、早速和尚さんに知らせた。 それを聞いた和尚さんや小僧たちは、すぐに本堂にかけつけると、小僧が行ったとおりネズミが一匹、ご本尊の剣に刺さっている。 ネズミは、手足を動かし苦しんでいるが死んではいない。首や尾を振って苦しんでいるだけである。 そこで、一人の小僧が子のネズミを剣からはずしてやると、ネズミは思いのほか元気で、本堂を飛び出し、どこかへ行ってしまった。 このあと、長くこの寺には、ネズミが寄り付かなくなったということである。 松生院のご本尊のことを「鼠突き不動尊」と呼ばれるのは、こんなことがあったからである。 紀伊国名所図会向陽山松生院芦辺寺の項より |