現職教育・研究会
国語科教育
1 研究主題
自分の思いや考えを伝え合い、深め合う子どもの育成
~資質・能力を育むための対話を通して~
2 主題設定の理由
本校の子どもたちは、素直で、学習への意欲も高く、課題に向かって前向きに取り組むことができる。知的好奇心も旺盛で、読書好きな子も多い。一方で、物語文や説明文の授業では、意見の拠り所が乏しく多様な考えが出ない、根拠を意見や理由と混同する、読み取りが深まっていかないなど、読むことに課題が見られる。また、読み取った内容を互いに交流し合う際、順番に自分の考えを話し、自分の話す番が終わると、次の人の話を聞くといった、一方通行のものが多いように感じる。さらに、授業の振り返りでは、単に「~が楽しかった」や「・・・がわかった」などのように、授業の感想に終始するものが多く、他の学習に転用できる読みの力に関する振り返りが少ない。
そこで、本校では、意図的に「対話」をうながし、考えを深め合う授業づくりを目指している。河野(2020)は、対話の意義を「相手との意見交換を通して社会性が養われ、自己の考えを振り返り、捉え直し、創造的に価値や意味を見いだすことである」としているように、対話は、自分の考えを深めるための非常に有効な手段である。
これらを踏まえ、読むこと領域において、資質・能力を育むための対話を通して、子どもたちが自分の 思いや考えを伝え合うことに必然性を見出し、考えを深め合う学びにつながるであろうという仮説を立て、本研究主題及び副題を設定した。
3 研究を支える「対話の3ステップ」
本校研究の副題「資質・能力を育むための対話」は、以下の「対話の3ステップ」に支えられており、今年度はここに焦点を当て、研究を進めてきた。授業の中で適時、様々な「対話の形態」を取り入れながら、まずステップ1として「対話の素地・ルール」の定着に取り組んでいる。その上で、一時間の授業の中で、ステップ2として「必然性のある対話」からステップ3である「思考を深めるための対話」につながるよう取り組みを積み重ねている。以下に詳述する。
(1)対話の3ステップ
<対話の素地・ルール>
効果的な対話を行うためには、話し方や聴き方といった対話のルールを確認することが大切である。本校では後述の学習環境づくりにあるように、学校全体で共通して取り組んでいるものもあるが、発表・反応の仕方や話型指導、話の聴き方、ハンドサイン、反応言葉など、対話の素地・ルールになる部分は各学級に委ねている。また、誰もが安心して発表できる雰囲気づくりも大切である。そこで各学年が実践を重ねていく中で、対話を成立させるために日々取り組んでいること、ルール等についても共有を図っている。
<必然性のある対話>
質の高い対話は、主に2つの要素で成立すると捉えている。話したくなる課題と魅力的な教材を活かせる指導計画である。教師が「話し合いましょう」「ペアで伝え合いましょう」と指示を出しただけの活動では、とうてい質の高い対話は発生しない。子どもの「話し合いたい」「聴いてみたい」という思いがなければ、対話はスタートしないのである。そのためには個々の考えにズレが出るような課題、多様な考え方が生まれる課題など、対話する必然性が生まれるような課題が望ましい。これまでの本校の取り組みでも、教師が提示する課題一つで、子どもたちの学習に向けての動きが大きく変わることが明らかになっている。
また、魅力的な教材を活かせる指導計画を組むことも大切である。教師がその教材の特性を理解し、効果的に活用できる単元計画を立て、授業に臨む必要がある。
<思考を深めるための対話>
対話の深まりとは、ペアやグループ、全体で、「見方・考え方」を働かせながら対話することで、自分一人では思いつかなかった考えを生み出したり、新たな「見方・考え方」に気づけたり、新たな問題を見出したりしている状態、と捉えている。
子どもたちが対話を通して考えを深めていくには、教師の働きかけが欠かせない。教師がファシリテーター役となり、話の方向付けや焦点化、発問・活動の工夫など、どのような働きかけができるのか研究を深めていく。また、「見方・考え方」の定着にも力を入れ、読み方が身に付く指導についての研究も並行して行う。
(2)対話の形態
そもそも「対話」とは、伝え合い、聴き合うことである。「聴き合う」とは、「(相手の考えを)聴く」→「(相手の考えを踏まえて)考える」→「表現する(伝える)」をくり返すことである。そのためには、子どもの実態に応じた課題や適切な対話の形態を考えることが重要である。そこで、本校では、対話の形態を以下の4つに分類した。
<ペアでの対話>
ペア(2人)で聴き合う活動である。相手の考えをよく聴いて、自分の考えを表現する。相手のよさも受け止めながら、自分の考えをつくる。
<グループでの対話>
3~4人のグループで聴き合う活動である。生活班や目的別グループなど、その形態は課題によって工夫し、友だちの考えと比べながら、自分の考えを広げる。グループとしての意見を1つにまとめるためのものではない。
<フリーでの対話(自由交流)>
交流の目的を明確に示し、子どもが自信をもって能動的に意見を交流する活動である。例えば、準備交流(全体交流に向けて、同じ考えをもつ仲間同士で集まり、考えを共有するための交流)、相談交流(何人かで、思ったことや感じたこと、考えたことを自由に話し合うための交流)などが挙げられる。また、「自分の考えを書けた子から自由交流をしましょう」と指示を出すことで、たくさんの子と意見を交流したり、一人でじっくりと考えたり、学習者が学び方を選択する個別最適な学びを実現することも可能である。
〔参考:三浦 剛(2021)「自ら動いて読みを深めるフリー交流」東洋館出版〕
<全体での対話>
ペアやグループでの対話活動で考えたことを学級全員で聴き合う活動である。読み取り方の違いや、感じ方の違いを整理しながら、自分の考えを深める。
4 自分の思いや考えを伝え合う力を育成するための日常的な活動や環境づくり
自分の思いや考えを伝え合う力を育成するためには、授業改善と共に、継続的な取り組みが必要である。本校では、自分の思いや考えを伝え合う力を育成するための基礎として、「人間関係づくり」「豊かな語彙力」「対話力の育成」を土台として、日々の授業や太田タイム、読書タイムで取り組んでいく。
「人間関係づくり」
子どもたちが自分の考えを安心して表現できるように、互いに意見を聴き合う、あたたかな学級の雰囲気をつくることが大切である。また、学習の中で、お互いの考えや意見を交流する機会を多く設けることで、その人の考え方や思いを知り、子ども同士がつながっていき、人間関係がつくられる。
「豊かな語彙力」
自分の考えや、気持ちを、より的確かつ細やかに表現するためには、言葉の使い方や語彙を豊かにすることが必要である。また、友だちの考えや、教材にある言葉や表現を受け取り、考えを働かせるときにも豊かな語彙力が根幹にあることで、その対象について、より深く理解することができると考える。つまり「語彙力の育成」とは、「表現力」「読む力」の育成へとつながっていく。
「対話力の育成」
子ども同士の対話ができるようになるためには、話し合いの方法を習得する必要がある。話し合いの方法とは、円滑に話し合いを進めることができるように、話し合いのルールの習得も必要だが、それに加えて、様々な話し合いの形態の実践や、より伝えたいことが明確になるようにホワイトボードの使用や資料の作成、提示の方法等、情報を話し合いに関連付ける力の育成などが求められる。
○太田タイム(15分)
月 曜 | 火 曜 | 木 曜 | 金 曜 |
国語 | 算数 | 算数 | 国語 |
国語
「人間関係づくり」・・・・言語活動を伴う、人間関係づくりのきっかけとなるようなレクリエーション「私は誰でしょう」「伝言ゲーム」 等
「豊かな語彙力」(表現 短作文)・・・・課題を設定し、短い作文を書く「漢字3字使ってお話作り」「接続語を使っての作文」「熟語を使っての短作文づくり」 等
「豊かな語彙力」(表現 語彙)・・・・・様々な言葉に触れ、語彙を習得する「新出漢字」「しりとりゲーム」「辞書意味調べ」「逆引き辞書」「ことバト」「ブラックボックス(どんなものが入っているかな)」「言葉集め(○○を表す言葉)」「あたまおしりゲーム」 等
「対話力の育成」(表現 話し合い)・・・課題を設定し、自分の考えを、ペアやグループ、学級で伝え合い、聴き合う「ミニ討論会」「○○するならどっち」「学級活動のふりかえり」「推理パズル(水平思考)」「論理パズル(論理的思考)」「リアクションゲーム」 等
○読書タイム(10分)「豊かな語彙力」
読書習慣を身に付け、本に親しむとともに、様々な構成の物語や、説明文の叙述、表現に出合う。